時代はいつも回り、巡っているもので、一度過ぎ去ったブームも世代を超えて再び流行したりするものです。
また、過ぎ去った昔を懐かしいと思う気持ちは人間誰しもあると思います。
一般にそんな懐かしさを漂わせたものや雰囲気を「レトロ」という単語で表現することがありますがこの言葉は一般的に漠然とした意味で使われていることが多いですね。
他にも「レトロ」と似た言葉に「ノスタルジック」や「サウダージ」、少し違う雰囲気ですが「ヴィンテージ」、「アンティーク」、「クラシック」。これらの使い分けはどのようにするべきでしょうか。
気になったので今回はその辺のところをはっきりさせておきたいと思います。
レトロの意味と使い方
そもそも「レトロ」とは英語のretrospective(レトロスペクティブ)という単語の略語です。
直訳では、回顧の・遡及的・過去に遡っての・追想にふける、等の意味を持っているようです。
つまり元の意味では単に「過去に意識を向ける」事を表現する単語のようですが、日本ではそこに心情的な面を加えて「その過去のもの、ことを懐かしむ趣味、趣向」という意味で使うのが普通のようです。
ただし、実際に古くなくても、見た目に懐かしいデザインで作られた製品の場合にも、「レトロ」という言葉で表現されることもあります。
ですから、特定の何かを指す言葉ではなく、あくまでも「懐かしい気持ち」にさせられる事物に対して、「レトロだなあ」と言えるわけです。ん~、やはりある意味では漠然とした単語なんですね。
因みに近年の日本にはレトロブームと言うのが何度か起きているようですが、1986年頃からの数年間では<大正末期から戦後の高度経済成長期直前>頃のファッションやインテリアが流行し、2000年初頭からの数年間では<1955年から1975年頃>のものが再流行しました。
そして2018年の今でも十代、二十代の若者の間でも「昭和レトロ」が流行っているようですので、これはもはやブームと言うより定番ものとして、一定数の人々に好まれ続ける趣向といえるのではないでしょうか。
ノスタルジックの意味と使い方
英語のnostalgia(ノスタルジア)の形容詞です。
レトロが「懐かしさ」を感じさせることに対してノスタルジックはそこに加え、「失われたものなどに対していわば憧れや恋しさ」を抱くときに使われる言葉です。
ですから、レトロと似ていますが、レトロよりも想いが感情的に動かされる事物に使うべきでしょうか。
主には「郷愁」とも訳され、過去に過ごした故郷をしみじみと懐かしむ気持ちに使われています。
つまりこれも特定のものを指すのではなく、心情を表現する単語ですね。
廃墟だったり、自然だったり自分自身がかつて体験していなくても、どこか懐かしさを感じ、引き込まれる風景ってありますよね。
まさに「ノスタルジックな気分に浸る」という表現がしっくりきます。
「サウダージ」の意味と使い方
ポルトガル語のSaudade(サウダージ)と言う単語です。
普段、日本人の日常会話ではほとんど聞かれることは無いと思いますが、有名歌手の曲のタイトルやお店の名前などで時々見かける言葉です。
意味は一見ノスタルジアと似ているようにも思えるのですが、実際は微妙に違うようです。
ポルトガル、ブラジルなどのポルトガル語が公用語の国々では特に歌詞に使われることが多いようで主には「過ぎ去った日々の記憶や経験をもう一度したいと強く思う感情」であったり、あるいは「離れている人、ものが、今現在にはないことに対して引き起こされる感情」を広い意味で使うのだそうです。
これはイギリスの翻訳会社Today Translationsが調査した、世界の翻訳しにくい単語の中でも7位に選出されるほど、訳が難しいようです。
結局、強いて訳す場合は英語圏では「ノスタルジア」、フランス語では「ノスタルジー」、日本語では「郷愁」と訳される事が多いようですが、やはり訳すこと、それ事態に無理が生じるのが「言語」のもどかしい宿命でしょうか。
「ヴィンテージ」の意味と使い方
古くはラテン語の「ぶどうを収穫する」という意味からはじまり少しづつ派生を繰り返し、現代ではかなり広い意味で使われるようになっているようです。フランス語では”vendange”で英語では”vintage”(ヴィンテージ)となります。
もともとは限られた範囲の指標として、『ぶどうを収穫して醸造、瓶詰めされるまでの工程』を表す言葉だったのが、いわゆる『ワインの当たり年』の事を表すようにもなり、さらに派生して『車、ギター、ジーンズなどの特定のよき時代の名品』を表すようになっていったようです。
そして現在の日本ではさらに転じて『名品・一級品』を指す言葉として、楽器・古着・家具などにも使われていますね。ただし、時期としてはあいまいで例えばギターなら60年、70年代の名品に使われ、それ以外では基本的に10年~30年以上前の名品、一級品に使われるのが一般的なようです。
今回調べてみるまで、私のイメージでは、ギターや家具がまさに「ヴィンテージ」という表現がぴったりだと思っていましたが、元々は葡萄やワインに深く関係する言葉だったんです。たしかに「vine」という単語は「ツル植物」という意味で主にぶどうの事を指すそうですからなるほど、納得できます。
意味が幅広く転じた現代ですが少なくとも「レトロ」、「ノスタルジック」、「サウダージ」とは違って心情的な言葉ではなく、簡単に言うと「新しくない良質、上等な名品」に対して使う言葉と言えそうです。
「アンティーク」の意味と使い方
Antique(アンティーク)はフランス語です。語源はラテン語の「Antiquus、古い」からきたそうですが、そこに希少価値が加わったものを「アンティーク」と言っています。日本語では「骨董品」と訳しますが、日本の「骨董」という言葉には、もともと、美術的な価値や希少価値は含まれていないそうです。
ではどのくらい古い物を指すのでしょう。また、『ヴィンテージ』が「新しくない良質、上等な名品」だとすると「アンティーク」はどのように違うのでしょうか。
調べると実に明確な定義がありました。
製造された時点から100年を経過した手工芸品・工芸品・美術品
これは1934年にアメリカ合衆国で制定された通商関税法に記された一文で、欧米諸国ではこの「アンティーク」の定義に概ね共通認識があるようです。(この定義は世界貿易機関(WTO)でも採用されていて100年より前に製造されたと証明できる物は関税がかからなくなっています。)
なんだか一気に縁遠いものになった気がします。100年も以前のもので美術的価値と希少価値があるものですからね。。
「クラシック」の意味と使い方
「アンティーク」は100年以上の歴史と美術的価値のあるものに使う言葉とすると「クラシック」もまた「価値」があるものに使うべき言葉なのでしょうか?
調べてみると、classic(クラシック)はラテン語の「class」に由来する事が分かります。
「class」とは等級、階級、科目、分類などを表す一般名詞ですから一見、歴史や価値とは無関係の様でもあります。
しかし「class」には『最高クラス(級)の』という意味も含まれており、そこからやはり歴史的価値を含む「古典」、及び「格式」に対して「クラシック」が使われます。
「ヴィンテージ」や「アンティーク」は物に使う言葉に対してこの「クラシック」はものだけではなく例えば「バレエ」や「スポーツ」、「音楽」など伝統的な様式がある概念に対しても使うのが一般的ですが、尚かつそこに規範となるものが無ければ「クラシック」とは言えないようです。
最後に
いかがだったでしょうか。もともと似て非なる言葉たちではありましたが、ちょっと意味合いが重なる部分もあったりして、使い分けが難しいなと以前から思っていたので、自分なりにはこれで少しは整理できたかなと納得しています。 ここまで読んで頂いた方にもうまく説明できていれば幸いです。