背もたれから入るウィンザーチェア

木製家具関連

ウィンザーチェアとは

「ウィンザーチェア」という名前の由来には諸説ある。
とはいえ、話はだいたい
ひとつの場所に落ち着く。

イギリス、ロンドンの西側にある町、
Windsor(ウィンザー)

王様の城があり、
森があり、
人が暮らしていた。

実に九百年以上の歴史を持つ町だ。

で、
ウィンザーチェアそのものの歴史としては、
はっきりと形を成したのが
17世紀後半あたりとされている。

……と、よく書かれている。

一方で、
イギリスにおいて
「背もたれのある椅子」が
一般に普及したのはいつ頃か。

そう聞いてみても、
答えはだいたい同じところに落ちる。
やはり、17世紀に入ってから、だ。

つまり、
ウィンザーチェアの歴史とは、
一般市民に背もたれ付きの椅子が
行き渡り始めた歴史でもある

——そう言ってしまっても、
それほど的外れではない。

実際のところ、
それ以前から各地には
挽物職人も、車大工もいた。

もっと簡素で、
もっと素っ気ない椅子は、
普通に作られていたはずだ。

ただし、その多くは
背もたれのない
スツールタイプだっただろう。

背中を預けられて、
尻をしっかり落ち着かせて座れる。

そんな「上等な椅子」は、
長いあいだ
王族や一部の上流階級の特権だった。

ウィンザーチェアのルーツは、
そうした特権が
一般市民へと開かれていく過程にある。

名もなき椅子の群れから、
「これは、椅子だ」と
はっきり呼べる存在への脱却。

そこに、この椅子の出発点がある。

いずれにしても、
ウィンザーチェアの最大の特徴は明快だ。

座板と笠木を除けば、
ほぼすべてが
挽物の部材で構成されている。

例外はある。
が、例外は例外だ。

基本的に、
細い。
丸い。
同じ形が、何本も立っている。

それが、ウィンザーだ。


ウィンザーチェアの材料と特徴

ウィンザーチェアが広まる以前、
ヨーロッパの上流階級が座っていた椅子は、
だいたい決まっていた。

マホガニー。
サテンウッド。
猫脚。
過剰な装飾。
布張り。

要するに、
高い木で、
重たくて、
偉そうな椅子
だ。

それはそれで、
美しかったのだろう。

ただ、
庶民の暮らしには、
あまり向いていなかった。

そこに現れたのが、
初期のウィンザーチェアだ。

地元で採れる木を、
混ぜて使う。

役割ごとに、
木を変える。

効率的に分業して、
量産する。

結果として、
ウィンザーチェアは
上流階級のサロンではなく、
一般家庭の台所や居間に、
すっと入り込んだ。

当時のウィンザー地方周辺には、
**チルタンヒルズ(Chiltern Hills)**と呼ばれる丘陵地帯があり、
とにかく木に恵まれていた。

そこでは、
仕事がきれいに分かれていた。

  • ボッジャー(bodger)
     森の中で脚や貫を挽く、挽物職人。
  • ボトマー(bottomer)
     座板を、手斧で、容赦なく仕上げる人。
  • フレーマー(framer)
     バラバラの部品を、椅子の形にまとめる人。
  • フィニッシャー(finisher)
     最後に色を入れ、表情を決める人。

一人で全部やらない。
だから、早い。
だから、安定する。

材料も、
合理的に選ばれていた。

  • 座板には elm(楡・ニレ)
  • 脚や貫の挽物には beech(橅・ブナ)
  • 曲げ木には ash(梻・タモ)

木の性格を、
ちゃんと使い分けている。

ただし、
一つだけ問題があった。

一脚の椅子の中で、
木の色が全部違う。

それはさすがに、
落ち着かない。

だから、
仕上げの色は
黒か、
濃い褐色に統一された。

装飾を足すのではなく、
情報を消す。

その結果、
ウィンザーチェアは
不思議なほど、
形だけが目立つ椅子になった。


ウィンザーチェアは、背もたれで語られる

ここまで見てくると、
ウィンザーチェアという椅子は、
構造としてはかなり単純だ。

脚は挽物。
座面は一枚板。
材料は地元の木。
分業で、合理的に作られる。

座面から下だけを見れば、
どのウィンザーも
だいたい同じ論理で立っている。

だが、
話はそこで終わらない。

この椅子は、
背もたれから急に饒舌になる。

棒の本数、
広がり方、
板か、丸棒か、
曲げか、直線か。

違いは見た目の問題ではない。
装飾の話でもない。

そこには、
時代があり、
土地があり、
作り手の都合があり、
そして、
使われ方の歴史がある。

ウィンザーチェアは、
座面から下で「成立」し、
背もたれで「物語が始まる」。

だからこの椅子は、
背もたれで呼ばれ、
背もたれで分けられ、
背もたれで記憶されてきた。

名前が違うのも、
形が違うのも、
理由はそこに集まっている。

——背もたれを見ると、
この椅子が
どこから来て、
どう使われてきたのかが、
急に分かり始める。

続きは、
背中だけを並べて見てほしい。


参考:

新版 名作椅子の由来図鑑

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