──「天然木」に騙される前に知っておいてほしいこと**
木製家具の裏側の話
──「天然木」に騙される前に知っておいてほしいこと**
家具ってのは昔から、だいたい木でできていた。
鉄でもプラでもない、あの「触ると気が抜ける」感じ。
人間は疲れると、なぜか木に寄っていく。
街角の電柱に肩を預ける犬みたいに。
で、ここからが本題なんだけど。
いまの世の中で「木製家具を買う」というのは、
木を買う話というより、
言葉の地雷原を歩く話になっている。
まず腹が立つのが、あの表示だ。
「天然木」。
天然木って、なんだよ。
天然じゃない木って、逆に何だ。合成木か。木味のガムか。
…いや、たぶん制度上いろいろ事情があるんだろうけどさ、
消費者庁だか経産省だか、
ここは一回、一般人の脳みそで考えてほしい。
「天然木」じゃなくて、
無垢なのか、木質材料なのか、種類名で書けって話だ。
こっちは木を買いに来てるのに、謎かけを解きに来たわけじゃない。ボケ。
そしてもう一つ、店頭でよく聞く呪文。
「ウレタン塗装だからお手入れいりません」。
いりません、ってのは言い過ぎだ。
人生で「お手入れ不要」なのは、だいたい壊れた関係と、放置された観葉植物ぐらいだ。
ウレタンは確かに強い。クレームも減る。メーカーとしては安心だ。
でもその安心を、
「メンテ不要です!」と過剰にCMして、
デメリット(補修しにくいとか、触った時の“膜”とか)を黙るのは、ちょっとズルい。
とはいえ、消費者だって悪くない。
忙しいし、なるべく楽したい。
「手入れいらない」って言われたら、そりゃ心が寄る。
で、寄った先にあるのが、
見た目だけ木で、中身が別人の、木製“っぽい家具”だったりする。
木の温もりを求めて買ったのに、
数年後、触るたびに「ん?」となる。
あの、地味な違和感。
最初は気のせいだと思う。
でも違う。だいたい最初から違う。
このページでは、そこをちゃんと地面に引きずり出して、
「木製家具」の裏側を、なるべく分かる言葉で書いておく。
木製家具は、だいたい二種類に分かれる
話を、いったん雑音の少ない場所に移そう。
木製家具の世界は、実はそんなに複雑じゃない。
大きく分けると、
二種類しかない。
- 無垢材の家具
- 木質材料の家具
これだけだ。
拍子抜けするほど、これだけ。
どちらも「木を材料にしている」という点では同じ。
でも、
考え方も、寿命も、
人との距離感も、
ほぼ正反対だ。
そもそも「無垢材」「木質材料」という言葉自体が、
一般にはかなり曖昧に使われている。
言葉の定義を先に整理しておきたい人は、
こちらの記事を先にどうぞ。
無垢材という、面倒で正直なやつ
無垢材というのは、
木を伐って、乾かして、
余計なことをせず、そのまま使った材料だ。
木が生き物だった頃の癖を、
ほぼ隠さず連れてくる。
香りがある。
触ると温い。
使っているうちに、勝手に色気を出してくる。
傷もつく。
でもそれは、
「失敗」じゃなくて、
生活の痕跡だ。
削れば戻るし、
塗り直せば息を吹き返す。
完成した瞬間がゴールじゃない。
使い始めてからが本番という、
家具としては、だいぶ厄介な性格をしている。
もちろん欠点もある。
湿度で動く。
反る。
節も割れもある。
値段も気まぐれだ。
だから、
これをちゃんと家具に仕立てるには、
作り手の知識と経験と、
「まあ、そうなるよね」という覚悟がいる。
木質材料という、よく出来た代用品
一方で、木質材料。
こちらは無垢材の弱点を、
技術で殴り倒そうとして生まれた。
木を砕く。
薄く剥ぐ。
向きを揃えたり、交差させたりして、
接着剤で固め直す。
合板、MDF、
パーティクルボード、集成材。
什器や量販家具工場の現場にとっては、もはや日常風景だ。
特徴は、だいたいこうなる。
- 反りにくい
- 割れにくい
- 色が変わらない
- 価格が安定している
- 大量生産できる
メーカーからすると、
正直、神の素材だ。
クレームは減る。
品質は揃う。
納期も読める。
おまけに安い。
だから世の中に流通している家具の多くが、
この木質材料でできている。
それ自体は、
別に悪いことじゃない。
「天然木」という、最大のミスリード
問題は、ここからだ。
木質材料の多くは、
表面に突き板を貼っている。
突き板とは、
0.2〜1mmほどにスライスした、
本物の木。
つまり、
皮だけは本物で、中身は別人、
という状態になる。
ここで、例の表示が出てくる。
「天然木使用」
嘘ではない。
だが、誠実とも言いがたい。
無垢材だと思って買い、
数年後、突き板が剥がれて、
中から別人が出てくる。
この瞬間、
家具との関係はだいたい終わる。
無垢材にウレタンを塗る、という選択について
ここからは、
少しだけ、
完全に個人的な趣味の話をする。
正解・不正解の話ではない。
あくまで、
「私はそう思わない」
というだけの話だ。
それを踏まえた上で、
あえて言う。
せっかく無垢材の良い材料を使っているのに、
ウレタン塗装でガチガチに固めてしまうのは、
本当にもったいない。
いや、分かる。
分かるんだ。
水に強い。
汚れに強い。
クレームが出にくい。
お手入れが「いらない」と言える。
家具を売る側からすれば、
これほど都合のいい仕上げはない。
そして、
ピカッとテカった表面に
「高級感」を見出す人が、
一定数いるのも、ちゃんと知っている。
だからこれは、
喧嘩を売りたい話ではない。
ただ、
それでも言いたくなる。
それなら、突き板でよくない?
無垢材の一番おいしい部分は、
表情が変わるところだ。
触ったときの温さ。
時間と一緒に深くなる色。
傷すら馴染んでいく感じ。
それを全部、
ウレタンでコーティングしてしまう。
結果、
触感はプラスチックに近づき、
経年変化はほぼ止まり、
表面だけが、ずっと同じ顔をする。
っていうか、表面の傷は悪目立ちするし、
見た目には勝った時がピークで、
その後は経年悪化しかしない。
それはもう、
無垢材の良さを
半分以上、置き去りにしている。
もし、
一枚板のテーブルが欲しいなら、
その木が持っている性格ごと、
引き受けた方がいい。
オイル仕上げが一番だ。
反るかもしれない。
傷もつく。
輪染みも、できる。
でもそれは、
「失敗」ではなく、
素材を選んだ結果だ。
それを全部なかったことにしたいなら、
最初から、
よく出来た木質材料を選べばいい。
僕は、
無垢材を選ぶなら、
無垢材らしく使いたい。
あくまで、
僕の好みの話だ。
ここまで読んで、
「じゃあ結局、どう選べばいいんだよ」と思った人へ。
その話は、この後の説明と合わせて別の記事(無垢家具の選び方と見分け方)でもまとめてある。
じゃあ、どうやって見分けるか
ここまで読むと、
こう思う人が出てくる。
「で、結局どうやって見分ければいいの?」
安心してほしい。
専門家レベルで見抜く必要はない。
家具売り場で、
一瞬触って、
数分眺めて、
判断できる範囲で十分だ。
① まず「表記」を疑う
最初に見るべきは、
デザインでも価格でもない。
材料表記だ。
もし、
「天然木」
としか書いていなかったら、
一歩引く。
無垢材なのか、
合板なのか、
MDFなのか、
集成材なのか。
そこが書いていない家具は、
こちらに判断を丸投げしている。
本当に無垢材なら、
「無垢」と書く。
書かない理由があると、
思った方がいい。
② 角と裏側を見る
次に見るのは、
角と裏側だ。
天板の縁、
脚の付け根、
裏面。
木目が、
途中で不自然に途切れていないか。
表と裏で、
別の顔をしていないか。
突き板は、
どうしても「貼っている感」が出る。
完璧に見抜けなくてもいい。
「ん?」と引っかかれば、
それは大体、当たっている。
③ 触ったときの温度
これは、
かなり原始的だが、
意外と外れない。
そっと、
手のひらを置く。
ひんやりするか、
すぐに馴染むか。
ウレタンで覆われた表面は、
最初、少し冷たい。
無垢材は、
じわっと温度を返してくる。
これは、
文章で説明するより、
体の方が早い。
④ 重さを持ち上げてみる
可能なら、
少しだけ持ち上げてみる。
見た目のサイズと、
重さが釣り合っているか。
妙に軽い場合、
中身はだいたい想像通りだ。
もちろん、
軽い=悪ではない。
ただ、
「無垢の塊」を期待しているなら、
話は別だ。
⑤ 店員の説明を聞く
最後は、
人だ。
「これ、無垢ですか?」
この一言で、
だいたい分かる。
すぐに、
材料名と構造が返ってくるなら、
少なくとも、
分かって売っている。
言葉を濁す。
「天然木です」。
「高級材です」。
その場合、
深追いはしない方がいい。
悪気はない。
ただ、
そこまで考えていないだけだ。
完璧に見抜こうとしなくていい。
「これは、
ちゃんと説明されているか」
そこだけ見れば、
致命的な失敗は、
かなり避けられる。
最後に
ここまで読んで、
少しでも「ややこしいな」と思ったなら、
それは正常だ。
木製家具の世界は、
親切な顔をして、
かなり不親切にできている。
「天然木」
「お手入れ不要」
「高級感」
都合のいい言葉だけが、
先に歩いて、
肝心な中身は後ろに隠れる。
(どこか加工食品のそれと似ている)
それに、
忙しい生活の中で、
家具にそこまで考えを巡らせる人は、
正直、多くない。
(これも食品添加物にいちいち目を通す人が少ないのと同じだ)
だから、
知らずに選ぶ。
選んでから、
「なんか違う」と思う。
それ自体を、
責める気はない。
ただ、
最初から知っていれば、
避けられた後悔も、
確実にある。
無垢材の家具は、
正直、面倒だ。
動くし、
気難しいし、
湿度にも文句を言う。
しかも、無垢材を生かすオイル仕上げなどは
ウレタンの様にピカピカにもならない。
でも、
それを丸ごと引き受けた人のところには、
ちゃんと残る。
十年後も、
二十年後も、
まだそこにあって、
しかも、逆に魅力を増している。
木製“っぽい”家具は、
便利だし、
きれいだし、
選びやすい。
ただ、
ある日、ふと気づく。
「これ、
別に木じゃなくてもよかったな」
と。
もしあなたが、
家具に何かを期待しているなら。
温もりとか、
時間とか、
付き合いとか。
その期待は、
素材を間違えると、
だいたい裏切られる。
この記事は、
無垢材を買え、
という話ではない。
「何を選んでいるのかを、
分かった上で選ぼう」
という、
それだけの話だ。
それができる人は、
たぶん、
家具で大きな失敗はしない。
ここまで読んだあなたが、
次に家具を見るとき、
ほんの少しだけ立ち止まってくれたら。
この長い話は、
まあ、無駄ではなかった、
ということにしておこう。


