木材の呼び方には世界中、古くから産地の呼び方(現地語)がありますが、その後市場に出るといろいろと変化することもあります。
他の業界に比べて曖昧なことが多い木材、木工業界ではしばしば混乱や誤解が生まれやすいので注意が必要です。
今回はあらためて紛らわしい木材について書いておこうと思います。
木材の名称
木材の正式名称
木は人にとって最も身近な材料として太古の昔から扱われていたこともあり、基本的に産地の言葉(呼び名)が使われます。
しかし世界中に輸出、入される木材の名称は非常に曖昧になるため植物命名学会では世界共通の名称に関するルールを設けています。いわゆる学名です。
分類の仕方は厳密には
界(かい)-門(もん)-綱(こう)-目(もく)-科(か)-属(ぞく)-種(しゅ)
の順番(これは動物でも同じ)ですが、図鑑などでも大抵は「科」以下が書かれています。
学名の書き方は「属」と「種」をラテン語の斜体(イタリック)で書く必要があり、属の頭文字は大文字で記します。
その学名のあとに命名者、命名年号を記すまでが正式な書き方のようですが命名者と命名年号は省略することができ、ほとんど省かれるのが常のようです。
結果的に属と種で書かれるので「二名法」と呼ばれます。
たとえば日本の代表的な桜の木である「ソメイヨシノ」はバラ目のバラ科ですがそれ以下、学名を上記の二名法で表すと
Cerasus yedoensis
となり、これは※サクラ属の一種となります。
また、サクラ属まで分かっていて種名が分からない場合は
Cerasus sp
と書き、それが複数を表す場合は
Cerasus spp
となり、”サクラ属の全ての木”という意味になるようです。
※サクラ類をサクラ属(Cerasus、ケラスス)に分類するか、スモモ属(Prunus、プルヌス)に分類するかは国や時代で相違があり、現在では両方の分類が使われているが日本ではCerasusが主流。
このように表わすことで世界共通の正式名称がそれぞれにあるわけですが、実際には木材に携わる全ての人が正式名称を知っているわけでもありません。
種類が違っても木材にした時に色や肌が非常によく似た木材も存在するので製材された木材をいきなり見ただけでは判断するのが難しい場合もあり、間違う事もあるでしょう。
紛らわしい木材の名前
一方で人為的に”なんとなく似ているから”と言った理由で木材の商品名として違う樹種の名前を利用し、その呼び名が定着した場合、一般に呼ばれている名前と学名が一致しないことがあります。
例えばサクラ属の中でも木材として使えるものでは数少ない種の”ヤマザクラ”があります。
これは今では貴重な木材ですが、一方で木材業界では紛らわしいことに「サクラ」というとカバノキ科カバノキ属(Betula)のマカンバ(Betula maximowicziana)などを指すことがあります。
これは木材商などがイメージの良い「サクラ」という響きを使ってカバノキを「カバザクラ」と呼んだり、単に「サクラ」と言い始めたのをきっかけに伝統的になっているからです。
あくまでも「マカンバ」や「カバ」はカバノキ科であり、バラ科のものとは全く違う樹種です。
このような例は木材では結構あるのでやっかいです。
「ダオ」という樹種を人気の高いブラックウォールナットにあやかって「ニューギニアウォールナット」と名付けたり、「タンギール」というラワン類の一種を高級材のマホガニーによせて、「フィリピンマホガニー」と名付けたり、同じく高級材のチークという名を使って南洋材の「ペリコプシス」という樹種に「ユーラシアンチーク」と名付けられているのも、木材商をはじめとした悪しき習慣と言えます。
紛らわしい木材の名称例
ダオ(ニューギニアウォールナット) | ブラックウォールナット | |
---|---|---|
科 | ウルシ科 | クルミ科 |
学名 | Dracontomelon dao | Juglans nigla |
産地 | 熱帯アジアからニューギニアにかけて | 米国、カナダの東部 |
タンギール(フィリピンマホガニー) | マホガニー | |
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科 | フタバガキ科 | センダン科 |
学名 | Shorea polysperma | Swietenia macrophylla 及びSw.mahagoni |
産地 | フィリピン | Sw. macrophylla;メキシコ南部、コロンビア、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、ブラジルなどに分布するが世界の熱帯各地でも造林され、重要な造林樹種のひとつ。
Sw.mahagoni; 西インド諸島などに分布し材質的に優れているが国内で消費されほとんど市場に出ることはない。 |
ペリコプシス(ユーラシアンチーク) | チーク | |
---|---|---|
科 | マメ科 | クマツズラ科 |
学名 | Pericopsis mooniana | Tectona grandis |
産地 | スリランカからマラヤ、スマトラ、ボルネオ、フィリピン、スラウェシ、ニューギニア、ミクロネシアなど | インド、ビルマ、タイ、インドシナなどの熱帯地域に分布し、インドネシアを始め、世界中の熱帯各地で造林されている。 |
アガチス(ナンヨウカツラ)(ナンヨウヒノキ) | カツラ | |
---|---|---|
科 | ナンヨウスギ科 | カツラ科 |
学名 | Agathis albaを含むAgathis spp | Cercidiphyllum japonicum |
産地 | マラヤ、フィリピンを含む東南アジアを経て、ニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、ニューカレドニアなどに分布し、国により造林されている。 | 国産で本州、四国、九州などにも分布するが北海道が一番蓄積が多い。 しかし近年では少なくなっている。 |
マカンバ 樺(カバザクラ)(サクラ) | ミズメ アズサ(ミズメザクラ) | ヤマザクラ | |
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科 | カバノキ科 | カバノキ科 | バラ科 |
学名 | Betula maximowicziana | Betula grossa | Cerasus jamasakura |
産地 | 北海道から本州北中部、また南千島に分布。 | 本州の岩手県以南、四国、九州に分布。 | 本州、四国、九州、朝鮮にも分布。 |
これらはほんの一例で、正式な名称とは違った名前が堂々と使われているのが木材業界の現状なので注意が必要です。