背中で読む、ウィンザーチェアの種類

木製家具関連

背もたれから入るウィンザーチェア

ウィンザーチェアという椅子は、どうも落ち着きがない。

というか、背中がうるさい。

椅子というのは本来、黙って人を座らせていればいい道具のはずなのに、ウィンザーチェアはなぜか背もたれで自己主張を始める。
棒が並んだり、扇のように広がったり、弓なりになったかと思えば、バイオリンの真似までし始める。

脚も座面も、だいたいいつも同じ格好をしているくせに、背中だけは落ち着かない。
まるで「ウィンザーの主役はアタシ」とでも言いたげだ。

だからウィンザーチェアは、背中で分類される。
これは学術的な理由というより、性格の問題だと思う。

本記事では、ウィンザーチェアを背もたれの構造だけに注目して、流行したおおよその年代順に並べてみた。
素材の話もしないし、価値の話もしない。
ただ背中だけを見る。

椅子の背中を、じっと見る。

すると、この椅子がどんな時代を生きて、どんな人間に座られてきたのかが、だんだん見えてくる。

かもしれない。


ウィンザーチェアは、なぜ背もたれで分類されるのか

ウィンザーチェアの脚は、だいたいいつも同じだ。
四本あって、斜めに開いていて、座面に突き刺さっている。

座面も同様で、分厚くて、無口で、壊れにくそうに作られている。
椅子としての義務を、淡々と果たしている。

問題は、背中である。

背もたれだけが、なぜか自由だ。
棒を並べてもよし、扇に広げてもよし、弓なりに反ってもよし。
気が向けば、中央に板を一枚差し込んで、透かし彫りまで始める。

椅子のくせに、背中で遊んでいる。

これは背板以外の怠慢ではなく、構造の都合だ。
脚と座面は、下手にいじると壊れる。
しかし背もたれは、人を支えているようでいて、実はそれほど重い仕事をしていない。

だから、背中だけがのびのび動き回っている。
違いとして。

人はその違いを見て、名前を付けた。
櫛みたいだ、扇みたいだ、弓みたいだ、バイオリンみたいだ、と。

こうしてウィンザーチェアは、背中のかたちで呼ばれる椅子になった。


この図鑑について

本記事では、ウィンザーチェアを背もたれの構造だけに注目して紹介している。
年代や呼び名には幅があり、必ずしも厳密ではない。

図鑑を眺めるように、
形の違いを楽しみつつ、気になる椅子の呼び名を確認してもらえればと思う。


コムバック(Comb-back)

17世紀後半〜18世紀初頭

背もたれのスティックが、座面から笠木までほぼ平行に並ぶ。
櫛のように見えることから、この名で呼ばれる。

装飾はほとんどなく、構造も素直。
ウィンザーチェアの原型と考えられている。


ファンバック(Fan-back)

18世紀前半〜中頃

背もたれのスティックが、上に向かって扇状に広がる。
見た目が一気に軽やかになり、椅子としての完成度も高まった。

ウィンザーチェアが広く普及するきっかけとなった形式。


ボウバック(Bow-back / Hoop-back)

18世紀中頃

背もたれの外周が、一本の曲木で弓なりに構成される。
内側にスティックを配した、アームチェアが多い。

曲げ木技術の成熟を感じさせる、象徴的な形式。


フィドルバックスプラット(チッペンデール様式)

18世紀中頃〜後半

背もたれ中央に、バイオリン形の装飾板(スプラット)を配する。
透かし彫りが施されることも多く、装飾性が強い。

ウィンザーチェアが様式家具の文脈に踏み込んだ例。


ラスバック(Slat-back)

19世紀初頭

背もたれの部材が、丸棒から平板へと変化する。
背あたりの良さと量産性を重視した構造。

実用家具としての側面が強まった形式。


スクロールバック(Scroll-back)

19世紀中頃

縦のスピンドルを持たず、横方向の板のみで背を構成する。
構造はウィンザーだが、見た目は大きく簡略化されている。

ウィンザーチェアの最終形のひとつとも言える。


ローバック(Low-back)

代表例:スモーカーズボウ
19世紀中頃〜20世紀初頭

背もたれを低く抑えた形式。
カフェやパブ、一般家庭で広く使われた。

気軽に使うための椅子として定着した姿。


最後に

背もたれを見ているうちに、だんだん分からなくなってくる。
どれが一番偉くて、どれが正しいのか。

もちろん、そんなものは最初から無かったのかもしれない。

ウィンザーチェアは、時代ごとに、必要な背中を辿ってきたのだろう。
たくさん人が集まる場所では広がり、
くつろぐ場所では低くなり、
飾る余裕が出れば、少しだけ格好をつけた。

背中は、暮らしの写し絵だった。


結局、椅子の背中と言うものは

ちなみに、ここまで書いておいてなんだが、
この図鑑を読んだからといって、
椅子に座る姿勢が良くなるわけでも、
家具選びが上手くなるわけでもない。

せいぜい、
次にウィンザーチェアを見かけたときに、
背中をちらっと見るようになるくらいだ。

それで十分だと思う。

椅子の背中というのは、
もともと、ちらっと見られるために付いている。


ウィンザーチェアが、なぜ背もたれで語られるのか


参考になった本

本記事を書くにあたり、何度もページを行ったり来たりした本。

新版 名作椅子の由来図鑑

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