二極化進む木工業界
気づいたら十数年、この業界にいる。
いや、「いる」というより、気づいたら抜けられなくなっていた、の方が正確かもしれない。
無垢材の家具をつくる工場。
数としてはもともと少ないが、その少ない中でさらに減っている。
減っているというか、静かに消えている。音もなく。
そしてその中で働く人間の待遇ときたら、これはもう、なかなか見事なものである。
独り身ならなんとか食ってはいける。食うだけなら。
いや、最近の物価高を鑑みると食うのも厳しいかも。。
そして、子どもが生まれた瞬間に現実が牙をむく。ああ、これは無理だな、と。
そして人は去る。静かに。音もなく。
だから、正直に言ってしまうと、若い人に「いい仕事だよ」と胸を張って勧められる職業ではない。
少なくとも、生活という現実を前提にするならば。
それでも、この仕事を選ぶ人間はいる。
不思議なことに、いる。
しかもそういう人間に限って、やたらとしぶとい。
そしてだいたい、独立を目指している。
つまり、どういうことかというと、これはもう単純で、
好きでやっているのである。
好きだからやる。やるから続く。続くから抜けられない。
気づいたら十数年。あれ、おかしいな、という話である。
一方で、別の世界がある。
ポリ合板、メラミン、突き板。
いわゆる木質材料を使った造作家具の世界。
こちらは仕事がある。普通にある。むしろある。
求人もある。ちゃんとある。給料も、まあ、出る。
少なくとも生活はできる。
世の中の流れとしても、こちらの方が理にかなっている。
住宅には最初から収納がついている。
クローゼットがある。棚がある。壁一面にある。なんならありすぎる。
となると、わざわざ高い金を出して、置き家具を買う理由がない。
残るのは、テーブルと椅子くらいのものだ。
結果どうなるか。
「家具職人です」と言いながら、無垢材をほとんど触ったことがない人が普通にいる。
それはもう、珍しくもなんともない。
そんな時代である。
では、これから木工をやりたい人はどうすればいいのか。
答えはわりとあっさりしている。
無垢材に強いこだわりがないなら、造作家具の会社に行った方がいい。
これはもう、きれいごと抜きでそう思う。
生活という現実は、なかなかしつこい。
木工をやるなら、どこで学べばいいのか。という話は一応こちらにまとめてある
逆に、
「どうしても無垢がやりたい」
「木そのものを触っていたい」
そういう人は、最初からその道に行くしかない。
ただし条件がある。
分業じゃないところ。
これがかなり重要である。
工程ごとにバラバラに仕事をする工場に入ると、何年やっても全体が見えない。
つまり、独立できない。
木を削るだけの人、組むだけの人、塗るだけの人。
それぞれはプロだが、それだけでは「一人でつくる力」にはならない。
だから、もし本気でやるなら、
最初から全部やっているところを探した方がいい。
まあ、ほとんど無いのだが。
ないものを探す。意地で見つける。これもまた、この仕事の一部である。
無垢家具の未来
では、無垢家具はこのまま消えていくのか。
そこまで単純な話でもない。
減ってはいる。確実に減っている。
だが、ゼロにはならない。
なぜなら、一定数、いるからだ。
「これじゃないと嫌だ」という人間が。
安いものを買って、壊れて、また買って。
それでいい人もいる。というか、そっちの方が多数派だ。
だが一方で、
「ちゃんとしたものを長く使いたい」
そういう人も、必ずいる。
しかも厄介なことに、人は年を取るとそっち側に寄っていく。
若い頃はどうでもよかったことが、だんだん気になってくる。
木の手触りとか、重さとか、妙な匂いとか。
そういう人がいる限り、無垢家具はなくならない。
ただし、つくる側は減る。
だからどうなるか。
たぶん、ちょっとだけ価値が上がる。
ちょっとだけ、である。
急に脚光を浴びることはない。
テレビで特集されて爆売れ、みたいなこともない。
ただ、静かに残る。
音もなく。
世の中では「ジャパンメイド」とか「職人の手仕事」とか、
便利な言葉がふわふわと飛び交っている。
だが、そういう言葉とは無関係に、淡々とやっている人間もいる。
というか、たいていそういう人間の方が長く続く。
流行りに乗らない。
乗れないとも言うが。
ただ目の前の木を削って、組んで、仕上げる。
それだけである。
それだけなのに、なぜか続いてしまう。
不思議な話だ。
まあ、自分もその一人なのだが。
できればこの先も、あまりブレずにやっていきたい。
ブレないというのは、頑固という意味ではなく、
ただ、余計なことを増やさない、くらいの意味である。
というわけで、今回は完全に独り言である。
だが、まあ、たぶんそんなに外れてはいないと思う。
読んでくれた人が一人でもいれば、それで十分である。
この記事で触れた木質材料については、こちらでまとめている。


