日本人が知っている木材の中でも、たぶん知名度だけなら上位に食い込むであろう「ラワン」。
ホームセンターでも木材屋でも、口にすると妙に通じる。
「ラワンでいっか」みたいな、雑だけど強い言葉だ。
で、これがまた、合板界隈――とくに普通合板の世界では、ほぼ常連の顔をして出てくる。
ところがだ。
この「ラワン」、よく知っているようでいて、実は正体がふわふわしている。
なぜなら、ラワンとは――
特定の樹種を指す名前ではないからだ。
「は?」と思った人、正常。
今日はその「は?」を、なるべく置き去りにせずに進めたい。
ラワンと呼ばれる樹種
そもそも南洋材の代表格みたいな顔をしている「ラワン」だが、
「ラワン科」なんて科は存在しない。
ラワンとして市場で扱われるのは、ざっくり言えば
- フタバガキ科
- その中の特定の属グループ
- さらに「重硬ではない」もの
という条件を満たす連中の総称である。
ただでさえ紛らわしい木材の名称だらけの世界なのに、
ラワンはその中でも「霧の濃い山道」みたいな存在だ。
標識はある。だが目的地がぼんやりしている。
なのでここで整理する。
ラワン材として市場で扱われる条件は、基本この3つ。
- フタバガキ科であること
- 属名(亜属)が Parashorea / Pentacme / Shorea のいずれかであること
- 重硬ではない(比重が高くない)こと
フタバガキ科(学名:Dipterocarpaceae)
フタバガキ科は、アジアの熱帯地域を中心に分布する双子葉植物の科で、
常緑高木が600種前後。3亜科17属ほどに分けられると言われている。
学名 Dipterocarpaceae の意味は「羽の二枚ある実」。
和名の「フタバガキ」も、柿みたいな形の果実に、羽根突きの羽みたいながくが2枚ついていることから来ているらしい。
……羽根突きの羽で木材界を支えてきたと思うと、
妙にかわいいが、実物は地味の極致。
ラワンの属名とグループ
日本にも輸入されてきたフタバガキ科木材の主要な属は、だいたいこんな感じ。
フタバガキ科の主要な属名
| 属名 | 種類(別名) |
|---|---|
| Anisoptera | メルサワ(クラバック) |
| Dipterocarpus | クルイン(アピトン) |
| Dryobalanops | カプール(カポール、リュウノウジュ) |
| Hopea | ホペア |
| Parashorea | ホワイトセラヤ(バクチカン) |
| Pentacme | ホワイトラワン(ライトレッド) |
| Shorea | ホワイトメランチ/イエローメランチ/レッドメランチ/セランガンバツー 等 |
このうち、ラワン材として扱われるのは Parashorea / Pentacme / Shorea 属。
つまり、上の表で言うと
- ホワイトセラヤ(約10種)
- ホワイトラワン(約3種)
- ホワイトメランチ(約30種)
- イエローメランチ(約40種)
- レッドメランチ(約75種)
- セランガンバツー(約45種)
……という、どんだけ居るんだ問題が発生する。
そしてさらに、この中で 比重が高くないもの が「ラワン材」として扱われる。
(特にセランガンバツーは比重が高いので除かれがち)
要するに、ラワンとは――
“この辺の一団(ただし軽め)” という呼び名だ。
地図で言えば「このへん一帯」って赤丸されてるとこ。
ちなみに、産地によって呼び名も変わる。
名前に「ラワン」がつくのはおおよそフィリピン産、
「メランチ」はインドネシア及びマレーシア産、
「セラヤ」はマレーシアのサバ州産、という傾向がある。
ラワンの色によるグループ分け
ラワンはさらに、色でまとめて呼ばれることがある。
だいたい下のイメージだ。
| グループ | ホワイトラワン | イエローラワン | レッドラワン |
|---|---|---|---|
| 属名(亜属) | Parashorea / Pentacme | Shorea(Richetioides / Anthoshorea) | Shorea(Rubroshorea) |
| 代表的な呼び名 | ホワイトセラヤ、ホワイトラワン | ホワイトメランチ、イエローメランチ、イエローラワン | レッドメランチ、レッドセラヤ、レッドラワン |
ここまで見てきた通り、
一言に「ラワン」と言っても、具体的にどの樹種かまでは特定できない。
「マツ」と言ってもクロマツ・アカマツ・ベイマツ・ロッジポールパイン…と色々あるのと同じ。
つまりラワンは、木材界の「マツ」枠だ。
雑で強い。
日本とラワン材の関係
いずれにしても、日本の木材工業は長いこと、
ラワンを代表とした南洋材に大きく助けられてきた。
戦後〜高度経済成長期の日本で、
住宅をはじめとした建築物には、ラワン合板がほとんど必須の建材だった。
(合板に限らず、南洋材全体がいなければ、あのスピード感は出なかったと思う)
ラワン類が国内で最も使われていた頃、
輸入材の50%以上を占めていた、という話もある。
……が、昨今ではラワンをはじめとした南洋材はずっと減少している。
理由は単純で、
戦後の日本がフィリピンをはじめとした熱帯林を、かなりの勢いで伐採し尽くしたからだ。(盛り過ぎかもしれんが)
フィリピンでは当時、国土の70%が森林だったが、22%程度まで落ち込んだと言われる。
(現在は少し上がっている、という話もある)
「材料が必要だった」だけでは済まない話が、ここにはある。
日本の木材輸入相手国
令和元年の日本の木材自給率は 37.8%。
一応9年連続で上昇しているようだが、まだ高いとは言いにくい。
2019年の木材輸入相手国・上位10国は次の通り。
- カナダ
- ロシア
- フィンランド
- スウェーデン
- オーストリア
- チリ
- アメリカ合衆国
- ルーマニア
- ラトビア
- チェコ
かつて伐採しまくり輸入していた熱帯地方の国は、
上位10国の中に一国も入っていない。
木材は日本人にとっても世界の人々にとっても重要な資源だ。
だからこそ、一国の都合(政治の都合とも?)で節度を越えた輸入をして、
大切な資源を削り落とすようなことは――
二度と繰り返してほしくない、と思う。
最後に
ラワンは、木の名前というより、
**「現場で通じる、でかい呼び名」**だ。
それが悪いわけではない。
雑に通じる言葉には、雑に通じるだけの歴史と事情がある。
ただ、ラワンをラワンのまま放置すると、
合板も、無垢も、輸入も、森林も、全部が「ふわっとした理解」のまま流れていく。
だから一度、
霧の中に入って、標識を立て直す。
それがこの記事の役目である。
ラワンは今日もどこかで板になり、
誰にも名を呼ばれず働いている。
たまには「お前、誰だっけ?」と聞いてやるのも、悪くない。


