木工を学びたい、教わりたい、そんな奇特なことを突然思い立ったとする。
朝起きて急に「家具作れる人間になろう」とか言い出すタイプの人間は、だいたい変わり者で、同時に愛すべき人物でもある。
ただ、この瞬間、ひとつの壁にぶつかる。
木工を学べる場所は少ない。
日曜大工くらいならいい。
ネットで検索すれば、誰かの手元が映っている動画がこれでもかというほど出てきて、棚くらいなら勢いで完成してしまう。
しかし、そこで味をしめて「木工、すなわち木材加工の基本のキ」からちゃんとやりたい」
と思った瞬間、道がいきなり細くなる。
ガードレール付きの歩道に電柱が立っている位細くなる。
木工というのはどうも、“秘伝のタレ”みたいに扱われてきたのか、基礎から教えてくれる場所も人も極端に少ないのだ。
そもそも現代の日本人は木に詳しくなりようがないのである。
身の回りを見てほしい。
木の名前を名乗っている素材の九割くらいは、じつは“木のふりをした別モノ”だ。
合板、MDF、パーティクルボード、プラスチック。
木目の印刷シートなんて、もはや詐欺に近い。
そこに大量生産された輸入家具も追い打ちをかけ、消費者は
「家具?ぱっと見、オサレで安けりゃとりあえずOK、とりあえずね。」
なんてことだから本物の無垢材なんて触れることもないし、家具を見る目も育たない。
まあ私も木工に興味を持つまでは、材料の種類どころか「ベニヤ板」も「まな板」もざっくりと同じ木でしょ。って認識だったので人のことは言えないのだが。
しかし、それでも私は家具をつくる人間になり、まわりを見渡すと、木工に惹かれて学びたいと言う人がぽつぽつ現れる。
しかも、無垢材の家具を“本物の値段”で買おうとする消費者も確実に存在することを知った。
つまり今の日本は
ジャンクと本物が混在しすぎて、価値観が派手に分裂している
という、妙な状況にあると思う。
そんな中で「木工を学びたい」と思うのは、それだけでもう軽く勇者である。
では、どうやってその道に入るのか?
選択肢を挙げると、だいたいこうだ。
家具製作(木工)の学び場を探す
本格的に“無垢の家具をつくりたいんじゃー!”という人が辿る道は、まあ決まっている。
- 工場・工房に就職し働きながら習う
- 職業訓練校に通う
- 民間の専門学校に通う
- 木工教室に通う
この4つ。たったの4つ。
細い。
つまようじくらい細い。
(因みにこの記事では一度社会人を経験した人向けなので、木材工芸科などの科目がある高校や大学へ進学するという選択肢は省いておく)
工場・工房に飛び込んで働く
もっともワイルドで、もっとも運が必要なルート。
まず未経験者を雇う家具工場や工房は極めて少なく、運が三回くらい連続で味方しないと入れない。
そして入ったからといって理想の未来が開けるとは限らない、どころか
「ずっと紙ヤスリ」「ずっと削る人」
になる危険性がきわめて高い。
木工の基礎なんて誰も教えてくれない。
親方に聞こうものなら、ため息混じりに「まあそのうちね」などと言われる未来すら容易に想像できる。
だが、うまくいけば現場で鍛えられ、生きた技術が身につく。
“当たれば強いが外すと痛い”という、謎のガチャのような道。
職業訓練校に入る
これはとても優れた選択肢だが、問題は木工科が全国に少ないこと。
定員も少なく、倍率が高い年はすぐ落ちる。
会社を辞めて受験して落ちると一年間の空白が生まれるという、罰ゲーム付きでなかなか恐ろしい賭けである。
しかし入校できれば木工の基礎を体系的かつ、わりと実技を通して学べるので、間違いなく得るものは大きい。
卒業後にすぐ独立してしまう人もいるほどだ。
民間の専門学校に通う
これも選択肢としては健全だが、授業内容は“家具専門”でない場合が多い。
と言うかこれも家具職人に特化した学校自体が少なすぎる。
インテリア寄りだったり、建築寄りだったり、ノミやカンナは“あ、今日は触るだけね”みたいなところも多いようなので入校前に十分吟味が必要だ。
要するに実践的に無垢材で一から十まで家具製作にかかる一切を習得できるのが良いのだが、どうしても民間学校だと広く浅くなりがちで、深く実習する時間は少なくなってしまう懸念が残る。
そして授業料が高い。
訓練校の数倍〜十倍。
仕事を辞めて、気軽に挑戦できる額じゃない。
各種木工教室を受ける
木工教室というのは何かひとつのもの、たとえばスツールならスツールを先生の指導のもと、あくまでもお試し体験的な雰囲気で行われる。といったイメージを持つ人が多いと思うがまさにそこが強み。
実はこれが一番現実的で、地味に強い。
働きながら通えるし、少人数で教えてくれるので濃度が高い。
短時間ではあるが、実践的で続ければ確実に技術が身につく。
国内には、無垢家具の製造メーカーは少なくなっているが探してみると各地に個人工房で木工教室をやっているところは意外とあるので是非検索してみると良い。
「本気で学びたいけどいきなり学校は重い」
という人には非常に良い道だ。
最後に総括という名の余計なお世話
どの道を選んでも、結局はこれひとつに尽きる。
自分から学ぶ姿勢があるかどうか。
これはどうやっても避けられない。
学校でも工場でも、質問をし、手を動かし、失敗を積み重ねる人だけが伸びていく。
木工は、努力した分はちゃんと返ってくる世界だ。
ただし返ってくるスピードが遅いので、せっかちな人には向いていない。
木と同じで成長がゆっくりだからだ。
ついでに言うと木工機械って結構ワイルドなものが多いからせっかちさんは指を失うこともざらにある。
焦る必要はない。
木は逃げない。
あなたが逃げなければ、ちゃんと答えてくれる。
と、偉そうに締めてしまったが、私自身まだまだ修行中の身なので、
このへんはどうか笑って許してほしい。
読んでくれて、本当にありがとう。


