乾いていない木の話

木材

木は、乾くまで落ち着かない。

木は、乾くまで落ち着かない。

伐られた直後の木は、
まだ自分が木だった頃のつもりでいる。

水をたっぷり抱えたまま、
重く、鈍く、
「そのうち何かに使われるだろう」
くらいの顔をして、
ただそこに横たわっている。

だが、そのまま使うと、
あとで必ず暴れる。

割れる。
ねじれる。
文句を言う。

木という素材は、
乾いて初めて、
こちらの話を聞く気になる。

木は、水を手放したがらない

木材の乾燥状態を表す言葉に、 含水率というものがある。

言葉だけ聞くと、 なんだか理科の時間の匂いがして、
ちょっと身構える。

でも、 考えていることは案外シンプルだ。
「この木、 まだどれくらい水を抱え込んでいるか?」 それだけの話だ。

ただし、木の含水率は人間のそれとは違う たとえばよく言う話。
人の体は、約60%が水分でできている。

これはつまり、 体の中の水分量 ÷ 体重 という、ごく素直な割り算だ。
これを湿量基準含水率という。

人間相手なら、 これで何も問題はない。

ところが木は、話が違う 木は、とにかく水を持っている。

伐った直後の木は、 「水でできている」と言っても ほぼ言い過ぎではない。

針葉樹などでは、
含水率150%超
なんて数字も、普通に出てくる。

……150%。
もはや「木」ではなく、
水が木のふりをしている

そこで登場する、木専用ルール。
木材の含水率は、
**乾いた後の自分(全乾重量)**を基準にして考える。

考え方はこうだ。
「完全に乾いたときの木の重さを、100とする」
そこに対して、
今どれだけ余分な水を抱えているかを見る。
これが 乾量基準含水率(全乾法)

※もちろん、伐った直後に「全乾重量」は分からない。
だからこれは、これ以上重量が下がらないってとこまで乾かして、
測って初めて確定する、
あと出しの基準だ。

例を出す(ここ大事)
仮に、ある木材が50kgあったとする。
乾かしてみたら、最終的に40kgになった。

つまり、
水分:10kg
乾いた木そのもの:40kg

(50 − 40) ÷ 40 × 100 = 25
含水率25%。

人間基準なら20%なのに、木材基準だと25%。
これは、木が「自分の体重」じゃなく、
乾いた“骨格”を本体として扱えと主張してくるからだ。
水は上乗せ。居候。おまけ。
木はそういう態度でくる。


ちなみに、ここでよくある誤解がある。

「じゃあ、完全に乾かせばいいのか」
というやつだ。

理屈だけ見れば、
含水率0%。
からっから。
水分ゼロ。

一見、理想的に思える。

だが、木はそこまで行くと、
今度は別の意味で使いにくくなる。

脆くなる。
粘りがなくなる。
衝撃に弱くなる。

要するに、
乾きすぎると、
今度は“折れる側の素材”になる。

木材は、
水を抜けば抜くほど強くなる、
という単純な話ではない。

「ほどよく水を含んだ状態」で、
いちばん性格が安定する。

だから現実には、
含水率0%なんて数字は、
測定の話としては存在しても、
材料の目標としては、ほぼ使われない。

12%とか、
15%とか、
あの中途半端な数字たちは、

木が
・暴れず
・折れず
・文句も言わず

黙って働いてくれる、
ぎりぎりの落としどころだ。

木の乾かし方にも、性格がある

木の乾かし方には、
大きく分けて二通りある。

急がせるか。
待つか。

それだけの違いだ。

だがこの違いは、
仕上がった木の「性格」を、
かなりはっきり分ける。

まずは、待つ方から。

AD材 ――風に任せる木

天然乾燥。
いわゆる AD材(Air Dry)。

やっていることは、
拍子抜けするほど単純だ。

製材した木を、
外に積んで、
風に当てて、
ただ待つ。

半年。
一年。
ときには、もっと。

木はその間、
雨に濡れ、
風に吹かれ、
寒さに耐え、
暑さにうんざりしながら、

少しずつ、
「もう水はいらない」
という気分になっていく。

この乾かし方のいいところは、
木が無理をしないことだ。

水は、
逃げたいところから逃げる。

木の中で、
喧嘩が起きにくい。

結果として、
材は粘りを保ち、
艶を残し、
なんだか素直な顔つきになる。

ただし、問題もある。

とにかく時間がかかる。

どこまで乾いたのか、
読みにくい。

予定は狂う。

現代社会と、
相性がいいとは言いがたい。

でも、
「木と折り合いをつける」
という意味では、
いちばん木に優しいやり方だ。

KD材 ――指示に従う木

一方が、
人工乾燥。
KD材(Kiln Dry)。

こちらは正反対だ。

部屋に入れて、
温度を決めて、
湿度を管理して、
風を送る。

木に考える時間は与えない。

「今から乾く」
「ここまで乾く」
「今日はここまで」

全部、こちらが決める。

その分、
早い。
正確だ。
予定が立つ。

家具でも建築でも、
今の流通を支えているのは、
ほぼ間違いなくKD材だ。

ただし、
木は少し緊張する。

急に水を抜かれ、
内側と外側で
気持ちのズレが起きる。

うまくやれば問題は出ない。
下手をすると、
木は黙ってストレスを溜める。

表面は乾いているのに、
芯が落ち着いていない。

そんな状態になることもある。

どちらが良い、ではない

ここでよくある話が、
「結局どっちがいいのか」
というやつだ。

答えは、単純で、
少しつまらない。

用途次第だ。

急いで、
安定した寸法が必要ならKD。

木の性格まで含めて使いたいならAD。

どちらも正解で、
どちらも不正解になり得る。

問題は、
木がどう乾いたかを知らずに、
使ってしまうことだ。

木は、
乾かされ方を、
ちゃんと覚えている。

それは完成したあと、
反りや、割れや、
触ったときの感触として、
必ず顔を出す。

グリーンウッド —— 乾かさない、という選択

木は、
乾かしてから使うものだ。
——ここまで読んできたら、
そう思って当然だ。

ただ、
世の中には
乾かさないまま作る
という木の仕事も、昔からある。

いわゆる
グリーンウッドと呼ばれるやり方だ。

水を多く含んだままの木を削り、
そのまま形にしてしまう。

西洋では特に、
このやり方は古くから好まれてきた。

代表的なのが、
フィンセント・ファン・ゴッホの絵に描かれている、
あの素朴な椅子だ。

背もたれがあって、
脚があって、
どこか頼りなく見える、
あの民芸的な椅子。

あれは、
乾ききっていない木で作られた椅子だと
考えられている。

乾かしてから使う木もあれば、
乾かさずに使われてきた木もある。

どちらも、
木としては、たぶん想定内だ。

人間のほうが、
あとから理由をつけて、
勝手に流派を分けているだけで。

木は今日も、
乾こうが、濡れていようが、
だいたい無言で立っている。

——ややこしいのは、
いつも使う側のほうだ。


ちなみに、
「いま、この木はどれくらい落ち着いているのか」を
どうしても数値で知りたくなった人のために、
世の中には 含水率計 という道具も、ちゃんと用意されている。

木に直接あてて、
ピッとやると、
だいたいの機嫌を数字で教えてくれる。

信じるかどうかは、
もちろん、使う側次第だ。

木材用含水率計を見てみる

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