家具にもいろいろありますが、「家具」といえば昔から木を材料にしたものが主流ですね。
日本はもともと森に恵まれているので当然ながら「木」と深い関わりがあるわけですが、何よりも「木」の風合いや温もりは他の素材にはない格別なものがありますよね。
木製の家具は飽きがこないどころか、使えば使うほど味わい深い質感に変化していくので経年変化を楽しめる、他では味わえない素材だと思います。
そして私もそんな木の持つ魅力に惹かれたひとりです。
ところでひとことに「木製家具」といっても実は一般に売られている家具の中には「木製」に見えても実は本来の「木製」ではないものが多いことにお気付きですか?
私も木工を学び、仕事としていく以前には、お店に売られている家具を見てその材料を見分ける事ができませんでした。
きっと大多数の方は以前の私と同じように家具をデザインだけで選んで購入していると思います。
でもどうでしょう?
せっかく木の温もりを求めて買った木製家具が、実は見た目だけの「木製風」家具だったら・・・。
今回はこれから木製家具の購入をお考えの方に、まず知っておいて欲しい木製家具の裏側について書いてみようと思います。
二種類の木製家具
まず木製家具の「木製」について考えてみましょう。
「木製」というからには「木を材料としてつくられたもの」であるのは言うまでもありませんが、ここではもう少し細かく考えてみたいと思います。
「木を材料として~」の「木」というのはそもそも植物としての姿があり、それぞれ生態的にも様々な特徴があります。
一方、木製以外の材料として使われる金属やプラスティック、ガラス等はそのような特徴はなく、一定の形もありません。
ですから、木を材料として使うには、大きく分けると以下の二通りの方法になります。
- 木を伐採し、乾燥させて使う
- 木を伐採し、乾燥させた後、細かく砕いたり、薄くスライスするなどして、接着剤で、板状や棒状に固める、又は貼り合わせる
1の材料を「無垢材」と呼び、自然素材ならではの温もり、風合い、経年の色や艶の変化など、他の材料には無い特徴を持ちます。
対して2は「木質材料」といい、本来の木の特徴を取り除いた材料です。
いわゆる「合板(ごうはん)」はこの代表格と言えますが、日本で誕生したのは、明治40年頃で、今では建築や家具業界だけでなく、多方面のものづくりにおいて定番として使用され続けています。
無垢と木質系は似て非なるもの
質の高い家具は決して安くない買い物です。ひとことに「木製」と言っても、まずはその材料が、無垢材なのか木質材なのか確認することが重要だと思います。
ではそれぞれ、具体的にどのように違うのか、材料としての特徴を挙げてみます。
【無垢材の特徴】
-
- 自然素材ならではの風合い、手触り、香りがある。
- 表面を一皮削ることで、きれいな木地を再生できる。
- 製品として完成してからも色味に変化が起きる。
- 環境(温湿度)に影響され、収縮、ねじれが起きやすい。
- 節や割れ等が含まれる場合がある。
- 価格は常に変動していて、把握しずらい。
- 種類がたくさんあり、それぞれの特徴に差がある。
上にはざっと思いつく特徴を挙げてみましたが、1,2,3の特徴が「無垢材」の最大のメリットであり、塗装が落ちたら、もう一度削って塗り直せるのは無垢材でつくられた家具だからできることなのです。
この特徴が使い手を飽きさせることなく、愛着を持って末永く、心地よく使っていくための一助となるわけです。
一方で、3以降の特徴では、いずれも対処が難しく無垢材を扱うと言うことはその作り手、メーカーにとって一定の知識と経験、及び技能が必要となります。
使い手にとっても、さほど難しくはありませんが、使っていく上で、その理解とある程度の正しいメンテナンスが、永く使うためには必要となるでしょう。
そういう意味では「無垢材」のデメリットと感じる場合もあるわけです。
【木質材料の特徴】
次に「木質材料」についてです。
そもそも木質材は、無垢材の扱いづらい部分を何とかしようと考えた結果、作られはじめた経緯があり、さまざまな工夫により開発され続けています。
例えばどの様なものがあるか挙げてみます。
- 合板
- パーティクルボード
- ファイバーボード
- 集成材
- ランバーコア合板
- ペーパーコアサンドイッチ合板
- 中空心合板
他にもありますが上に挙げたのは一般に家具に使われている材料です。
それぞれ違った方法で、無垢材の扱いづらい部分を克服するために生まれた材料と言えます。
ですから、先ほどの【無垢材の特徴】の中でデメリットに感じられた
- 製品として完成してからも色味に変化が起きる。
- 環境(温湿度)に影響され、収縮、ねじれが起きやすい。
- 節や割れ等が含まれる場合がある。
- 価格は常に変動していて、把握しずらい。
- 種類がたくさんあり、それぞれの特徴に差がある。
といった部分が、
- 製品として完成してからも色味に変化はほぼ起きない
- 環境(温湿度)にさほど影響されず、収縮、ねじれは起きにくい。
- 節や割れ等が含まれる場合がないとは言えないが、極めて少ない
- 価格がほぼ一定に安定していて、把握しやすく、無垢材に比べ、安い。
- 無垢材ほどの種類はない、それぞれ、特徴はあるが、用途がはっきりしている
という特徴に変わります。
ですから「木質材料」を使う事は作り手、メーカーにとっても効率的で扱いやすい材料といえます。
これらの材料の開発が進むにつれ、無垢材の加工のように熟練の職人の腕に頼らずとも大量に生産できるようになったのです。
木質材料の欠点
今の家具業界では「無垢材」にこだわった家具メーカーは少数となり、一般に流通しているほとんどの木製家具は、具体的には「木質材」でつくられているのが実状ではないでしょうか。
しかし、一見無垢材のデメリットが解消され、いいことずくめのような「木質材」ですが、実は見逃せない事実があります。
無垢材のデメリットと言える部分が解消したはずなのに、新たにデメリットを生んでしまった部分があるのです。
その一つが
自然素材ならではの風合いを失う事。
根本的なところですが、木製の家具を求める場合そもそも、程度はそれぞれですが大なり小なり皆、「木の風合い」を好んで選んでいるはずです。
しかし、木質材にはそれがありません。
比べてみればよく分かりますが一見、木の雰囲気はあっても、言わばそれは偽物ですから似て非なるものなのです。
そして、もう一つ、最大のデメリットと言えるのが
接着剤の問題です。
自然素材ならではの風合い、手触り、香りが無くなり、接着剤を大量に使うため、接着剤の臭いや、わずかながら揮発する有害物質(∗ホルムアルデヒド)が含まれるのが木質系材料の宿命といえます。
さらには、
表面に∗突き板を貼った場合、経年の接着劣化で剥がれる可能性が高く、再生できない。
と言う問題も、愛着をもって永く使いたいと考える場合には、致命的なデメリットとなりそうです。
修理ができないとなると、何かあったらそこでおしまいですからね。
こうしてみると一言に木製と言っても無垢材と木質系では真逆の特徴を持っている点など、全くの別物である事がお分かり頂けたでしょうか。
メーカー任せでいいの?木製品の現状
ここまで無垢材と木質材料の違いをみてきました。
無垢材を扱うには一定の知識と技術が問われますが木質材であれば比較的経験の浅い職人、作業者でも即戦力となりますから比較的安価な商品を作ろうとするメーカーにとっては木質材を使用するのは必然的な事だろう思います。
結果的に私たち消費者にも、木質材を使用することで受けている恩恵はたくさんあります。 例えば大量に材料が必要となる、建築物の場合、すべて無垢材で造るのは相当なコストになりますし、林業が衰え、輸入材に頼っている日本では供給量や様々な事情で無理があります。
そのため木質材料が短期間、ローコストで建てるには大変役立つ材料として、重宝され続けているのです。
ただし、それは大きな建造物や住宅、作り付けの壁面収納、キッチン周りなどに言える事で、テーブルや椅子、サイドボード、チェストなど「置き家具」といわれる類いまで、木質系材だけに頼るのは私、個人的には何か違う気がします。
ただでさえ私たちの身の周りには、一見、自然素材である「木」だと思っていても、実態は「合板」や「集成材」、MDF(ファイバーボードの一種)などの材料に※突き板を貼って「無垢材」に見せかけたものがたくさん溢れています。
その技術は素人にはなかなか見分けがつかないほど優れているものもありますから、デザインや価格、ブランド名だけで選んで購入すると、知らず知らずのうちに無垢材に触れることが無くなり、一般の消費者の中には木質材を無垢材と誤解したまま使用し、あたかもそれが健康にも害の無い、自然素材そのものだ、と思い込んでしまうこともあると思います。
実際、家の中に無垢材のものが全く無い家は珍しくないですし、これでは消費者の木に関する最低限の知識さえ、抜け落ちるのも当然な事と思うのです。
木質系材を作る技術は製造開始当初より改良されつづけ、当初問題となっていた剥がれやすい点は改善されつつありますが、有害な※ホルムアルデヒドについてはWHOや厚生労働省により基準値が設けられているとはいえ、全く揮発しないわけではありません。
臭いに関してももはや、不快な臭いを消すことはできません。
何しろ大量の接着剤が必要ですから、そこに含まれる有害物質が、シックハウスやアレルギー症状を引きおこす可能性がつきまとっているのです。
昨今の住宅は、開口部が小さく、機密性が高いため、それだけ内装に使われる材料から受ける影響は大きいはずです。
そのような住宅事情の中、どうしてもコスト面で家や据え付け家具においては、妥協せざる得なくても、せめてテーブルや椅子、サイドボードなどの置き家具くらいは天然の風合いを感じられる無垢材の家具を使いたいと思うのは私だけではないはずです。
*突き板:丸太状の材木から厚さ0.15~1.0㎜にスライスしたもの。意匠映えする、木目の綺麗な材種を主に用いる。
*ホルムアルデヒト:毒性の強い有機化合物の一種。主に防腐剤や接着剤の主成分として使われていて、この接着剤は木質系材料を量産するには欠かせない。因みに一般に流通している「木工用ボンド」などにはホルムアルデヒドは含まれていない。家具を組み立てる工程で使うのも、通常、含まれない類いを使っている。
最後に
木製家具について私なりに能書きを書かせて頂きましたが「百聞は一見にしかず」。
これから木製家具を購入される際には、一度無垢材の家具を取り扱う家具店へ、足を運んでみることをおすすめします。
とはいうものの、この「無垢材の家具を取り扱うお店」というのが全国的に見てもそう多くはありません。
「無垢の家具の選び方」でも紹介していますが、個人的には「クラフトフェア」などに行ってみるのもオススメです。
全国各地で一年中行われているクラフトフェアにでかけて、お気に入りの作家さんを見つけてみるのも楽しいかと思います。