この木製品は何でできている?
ということで、今回は日本が誇る弁当箱。
わっぱ、めんぱの材料について調べてみました。
木製弁当箱(わっぱ・めんぱ)
現代では様々な素材で多様な保存容器がありますが
誰もが使ったことがあるであろう弁当箱の代表的な素材であるアルミニウムの弁当箱ができたのは1897年(明治30年)頃。
そしてプラスティック製の弁当箱で多く使われているポリプロピレンは1950年(昭和25年)頃に誕生しています。
一方、自然素材である木材の弁当箱で代表的な「曲げわっぱ」。
こちらの歴史は圧倒的に古く、その工法自体は確認されているだけでも約2800年前の縄文末期のものが発掘されていて、日本の産業としては江戸時代からおひつや弁当箱として確立されています。
曲げわっぱに使われる樹種は古くはケヤキの樹皮でできたものが発掘されているようですが、他に今現在ではどんな樹種が使われているのでしょうか。
今でも私達が手に入れることができる全国各地の代表産地から確認してみたいと思います。
わっぱとめんぱ(メンパ)の違い
因みに「曲げわっぱ」の他に「めんぱ」という呼び方がありますが、一説には山で働く木こりの人々などの間で「ご飯をめいっぱい入れられる」ことから、「めんぱ」と呼ばれていたとか。
めんぱはひらがな表記とカタカナ表記が混在していますが以下、ひらがなで統一しようと思います。
一方、今では曲げ物の総称として使われている「わっぱ」の方はアイヌ語で「輪」を意味するところからきているようです。
いずれにしても木材の薄板を曲げてつくられた蓋が付いた箱のことです。
曲げわっぱに使われる樹種
[秋田県]大館曲げわっぱ
江戸時代中期、大館城主佐竹西家が下級武士の副業として奨励したことから秋田杉を使用して作られ続け、1980年に国の伝統工芸品として指定されました。
材料の樹種:秋田杉(アキタスギ)
日本の三大美林のひとつである「天然秋田杉」を使用され続けてきた大館曲げわっぱですが、2013年3月、森林の保護を目的に伐採が禁止されました。
近年では在庫利用を除き、ほとんどが人工林である「秋田杉」が利用されているようです。
天然秋田杉は樹齢200~250年で年輪幅が狭く、節のない光沢ある柾目が特徴でした。
一方、「秋田杉」は樹齢は100年前後であり、天然に比べれば年輪幅が広めなものの、色味が天然より美しく赤みがかり、均一な木目、軽さ、弾力性、心地よい芳香は相変わらずで曲げわっぱに最適な材料といえます。
大館曲げわっぱ関連リンク |
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大館工芸社online shop |
有限会社 栗久 |
りょうび庵 |
柴田慶信商店HP |
大館曲げわっぱ協同組合 |
[群馬県]入山めんぱ
日本を代表する温泉地、草津の隣町である中之条町の入山地区でつくられるのが「入山めんぱ」
江戸末期に長野方面から伝わったとされる入山めんぱは、この地域の林業に携わる人々の冬の仕事として伝わってきました。その特徴は「小判型」、今では珍しく無いように思いますが初期のわっぱは丸形が主流だったようで、縁起物としても扱われてきました。
しかし、現在では後継者不足により、入山めんぱをつくるのはたった一人となっているようです。
材料の樹種:赤松(アカマツ)
地元の赤松を使用しているようです。
入山メンパ関連リンク |
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群馬県ふるさと伝統工芸士会 |
pro-ditional-nippon |
[長野県]木曽めんぱ
中山道の奈良井宿近辺でつくられる曲げわっぱの中でも代表的なのが「小判型めんぱ」です。
こちらの歴史は400年位と言われていますから年代的にも先に紹介した入山めんぱはこの系統の流れを汲んでいるようです。
今でもいくつかのメーカーが存在しているので、私達は簡単に良質な製品を手に入れることができます。
材料の樹種:木曽ヒノキ(側板部分)・木曽サワラ(蓋・底の板部分)
当該関係サイトで確認してみると、木曽めんぱの大きな特徴には以下の三点が挙げられています。
- 材料の使い分け
- 側板の形状
- すり漆仕上げ
材料の使い分け
木材の特徴と言えば水分の吸収、放出といった動き、がありますがその中でも「木曽サワラ」には高い吸水性と保湿力があり古くからおひつや寿司桶の材料として使われていました。
そのことから、ご飯を美味しく長持ちさせたい弁当箱にも「木曽サワラ」を使う事は理に適っています。
ところが曲げわっぱの側板は薄板を曲げてつくる構造上、桶などのように厚みがあってはできません。
そこで曲げる部分には、しなやかで丈夫な「木曽ヒノキ」が選ばれてきました。
側板の形状
木曽の工人たちはその側板に、勾配をつけることでさらに強度と軽量化の面で工夫を凝らしています。
曲げ物の板は外側と内側の円周差があるため、厚過ぎても薄過ぎても、もろくなりがちです。
その対処として、側板の断面に勾配をつけています。
蓋板や底板と接する方を薄くすることで円周差によって生じる材料の負担を薄い方へ逃がすことができます。
この形状はさらに、板の収縮や反りを軽減させることにも貢献していますし、接続部分は楔を打ち込むようにはめられるので隙間が出にくく、綺麗な仕上がりにもなります。
拭き漆仕上げ
拭き漆仕上げとは、漆を塗り重ねて漆黒や朱色などに塗り込むのではなく、生漆を木地にすり込んでは拭き上げる、と言った肯定を数回(3~4回)繰り返す技法です。
この特徴は木目が透けて見えたままに活かせることと木地の呼吸を止めること無く、汚れなどから守り、艶を生むことができるところにあり、これによってメンテナンス性(洗いやすさ)や強度も向上させることができます。
また、漆には優れた抗菌作用があり、夏場などでも中に入れた食材が傷みにくいというメリットがあります。
木曽のめんぱづくりは今でもいくつかのメーカーでつくられていますが、基本的に、ここに挙げた3つの点で共通しているようです。
木曽めんぱ関連リンク |
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古澤漆器店 |
木曽海老屋通販 |
花野屋 |
曲げ物の店丸田屋 |
木曽漆器工業共同組合 |
[静岡県]井川めんぱ
井川めんぱの歴史はおよそ200年ほど、静岡市葵区の井川地区で受け継がれてきました。
現在では井川地区での職人がいなくなり、静岡の町中で井川めんぱの技術伝承者がただ一人で作っています。
材料の樹種:ヒノキ
井川めんぱの最大の特徴は漆塗りです。
これは木曽等の拭き漆(擦りうるし)仕上げとは違い、汁物を入れてもこぼれない様にキメの細かい塗り方で、板と板の継目などは幾度も塗り重ね、防水性を高めています。
その艶も美しく光沢があり、比較的濃色です。
井川めんぱ関連リンク |
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静岡県郷土工芸品振興会 |
井川メンパ大井屋 |
[三重県]尾鷲わっぱ
三重県指定伝統工芸品に指定されている尾鷲わっぱを、現在製造しているのは唯一「ぬし熊」の4代目、のみとなっているようです。
ぬし熊は明治20年創業で45の工程でのわっぱづくりが受けつ継がれてきました。
材料の樹種:尾鷲ヒノキ
継目の穴が細かいのが印象的です。
尾鷲わっぱ関連リンク |
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ぬし熊 |
JTCO日本伝統文化振興機構 |
[福岡県]博多曲げ物
江戸時代に始まり、福岡市にある筥崎宮の神具として、古くから奉納されてきた伝統のある「博多曲げ物」は昭和初期には20軒以上あった工房は今現在2軒のみ。
そのうちの1つ「博多曲げ物 玉樹」は現在18代目
材料の樹種:国産スギ
継目を止めるのはいずれも桜の皮
現在、国内でつくられている伝統的なわっぱ、めんぱの産地をご紹介しました。
探してみるときっと他にも生産者はおられると思いますがいづれにしても材料に関しては針葉樹が良いようですね。
そして継目を止めるのに適しているのはどの生産者も桜の皮を使っているところをみると、まさにこれがベスト、と言えそうです。
以上、今回はわっぱ、めんぱ(メンパ)の材料に注目してみました。