木製家具に使われる材料の中でも他の木材とは一線を画す存在である「桐」。
古くから全国各地に分布し、生活の道具に加工され使われてきましたが、
このページではあらためて、桐の特徴と桐製品の中でも代表格である桐箪笥の主な生産地をまとめます。
桐(きり)
学名(英名):
Paulownia tomentosa
科:
以前ではゴマノハグサ科。現在ではシソ目のキリ科という事になっている。
分布:
原産地は中国中部、または韓国の鬱陵島(ウルルン島)とも言われているが実ははっきりとは分かっていない。
国内では特に東北地方、関東北部、新潟県などに植栽され、木材利用されている他、大分・宮崎県境の山岳地帯に自生地がある。
海外では中国、台湾、米国、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、オーストラリア等で植林されている。
特徴:
落葉広葉樹で、木材としては気乾比重0.19~0.40と極めて軽軟で加工しやすい。
しっかり乾燥させていれば湿度などの変化にも狂いが少なく、この事が家具(特に箪笥)づくりに積極的に使用されてきた。
芯材と辺材の色の違いはさほど無く、淡褐色で若干辺材が淡い程度。
成長が早く、苗木から家具が作れるほどの成木になるまで15~20年であることから、よく知られる桐箪笥のエピソード(娘が生まれると桐を植え、嫁入り道具として箪笥を拵える)が伝わっている。
産地によるが寒い地域ほど木目がはっきりとしていて美しく、重宝される。
国内生産量はピーク時(昭和34年頃)の2%まで落ちているものの、桐箪笥を伝統工法で製造するメーカーはまだまだ健在であり、全国各地で高級桐箪笥が作られている。
桐の欠点と利点
桐の利点としてよく言われているのが防虫防腐効果と断熱・耐熱効果です。
この他にもフローリングなど体に触れる場所に使ったときの肌触りの心地良さ、と言った利点もあります。
しかし、”利点がある”と言うことは”特徴的な性質がある”と言うことであって、視点を変えてみるとその特徴は欠点にもなり得るものです。
桐の場合の欠点とされているのが次のような事です。
- 時と共に黒ずんで、見栄えが悪くなる
- 表面に傷が付きやすい
1.時と共に黒ずんで、見栄えが悪くなる
桐が防虫や食害を防ぐのはタンニンの働きがあるからで、タンニンには空気に触れていると黒ずんでしまうという性質もあります。
また、古い桐箪笥などを見ると分かるように、表面が平らだったものも時間と共に夏目(木目の柔らかい部分)の風化、乾燥が著しく、表面がでこぼこになってしまうことが見栄えに影響してきます。
ただしそれも主観ですのでそこが味わいととらえることもできると思います。
2.表面に傷が付きやすい
傷が付きやすいくらい非常に柔らかいからこそ一方で、空気を多く含むため、熱伝導率を下げ、断熱・耐熱効果を高くできると言う見方ができます。
他の木材に比べて着火点・発火点共に上回っています。(杉の発火点250°に対して桐は400度以上)
また、少し爪がすれただけでも傷が残るくらい柔らかいですが、これは決して強度が低い、と言うわけではありませんし、柔軟さがあるので少し傷が付いたとしても水分と熱を加える事で比較的簡単に傷表面が膨張し塞がります。(濡らしたウエスをあててアイロンをあてるだけで戻ります。)
このように利点と欠点は表裏一体のものであることが多いですが相対的には桐材の利点は多く、最初に挙げた以外にも音響効果があるため昔から琴等の楽器に使われたり軽くて加工しやすい事から下駄づくりにも欠かせません。
それと成木になるまでに15~20年と早いにもかかわらず、製品として使っていける使用耐年数は100年でも可能な上、処分する際にも有害ガスは発生しませんから、桐製品を使う事は地球環境維持にも大いに役立つと思われます。
国内の主な桐箪笥生産地域
ここでは桐箪笥の主な生産地域を挙げていきます。
新潟県 加茂市
加茂で桐箪笥がつられはじめたのはおよそ200年前からと言われています。
昭和51年に通産大臣より伝統的工芸品の指定を受けました。
埼玉県 春日部市
江戸時代初期、日光街道の宿場町だった春日部には日光東照宮建立に携わった多くの職人が集まっていました。
春日部の箪笥づくりは建立後もそこに住みついた多くの職人たちが指物家具を作り始めたのが始まりと伝わっています。
その際その周辺で手に入った良質な材料に「桐」が選ばれたのでしょう。
江戸時代中頃から箪笥が作られ始め、「明和9年(1772年)」の裏書きのある桐箪笥が現存するから、古くから桐箪笥産地としての原型が整っていたのが覗えます。
昭和54年8月に伝統的工芸品に指定されました。
愛知県 名古屋市
他産地のものと比べて幅が広く、くぎはヒバ製あるいはこれと同等の材質のものを用いるところに特徴があり、良質な材料「飛騨桐」の産地に近かったことと江戸時代初期の名古屋城築城で職人たちが集まったのが桐箪笥の歴史の始まりです。
昭和56年6月、伝統的工芸品に指定されました。
大阪府 泉州地域
日本で最初に箪笥が作られ始めたのが大阪と言われています。
普及し始めたのは江戸時代中期ですが最初は庶民の中でも富裕層しか持てなかった(必要なかった)のが江戸の末期になると農業技術も発展し、近畿地方の一般の農家にも行き渡るようになり、安定した需要と供給のバランスが保たれました。
そんな背景から、職人達は使いやすさだけでなく、消費者の高い要求に応えるべく、美しさや細工の巧妙さなどにも益々磨きをかけ、箪笥作を発展させてきました。
徹底的にこだわり抜いた泉州の桐箪笥は桐箪笥の中でも「最高峰」と言われています。
平成元年、伝統的工芸品に指定されました。
⇒大阪府HP「大阪泉州桐箪笥、泉州桐箪笥」ページ
和歌山 紀州地域
和歌山では江戸末期には箪笥づくりの技術は確立されていたとされ、明治時代には、大阪圏の需要を満たす地廻り産地として発展を続けると同時に、地元需要も増加。
明治34年に南海鉄道が開通して貨物輸送が可能になってからは益々発展していきました。
昭和62年に伝統的工芸品に指定されました。
主な桐箪笥生産地域は以上ですが、桐材の主要産地は別にあります。
最後に
よく言われている「娘が生まれたら桐を植えて、嫁に行くときにその材料で桐箪笥を拵えた」
と言うエピソード。
このエピソード通りに箪笥を作るためには、成木となるまで約15年位の後、さらに乾燥期間がありますから、生木を切り倒してから、数年待たないといけません。
昔ですから自然乾燥で乾燥期間は状況によりまちまちだったでしょう。
当時の婚期は早かったでしょうがあまり早い結婚には間に合わなかったかも知れませんね。
また、一説には良質な桐材となるまでには成木まで15年くらいの後、さらに大きく育てて樹齢60年以上のものが良い、とも言われています。
かつての日本の桐材にはそのような良質な桐材が採れていたようですが、今では減少し、中国産にその多くを頼っている節があります。
しかし日本に入ってくる中国産の桐材は温暖な江南省周辺のものなので、日本産の桐材とは似て非なるモノ、でもあるようです。
桐箪笥を購入される際にはやはり、国産の桐材を丁寧につくっているメーカーを探す必要がありそうです。