桐(きり)は、驚くほど軽く柔らかいのに、乾燥が決まれば狂いが少なく、防虫・断熱にも強い木材です。
一方で、黒ずみや傷つきやすさといった欠点もあり、その理由を知ると桐の評価は大きく変わります。
本記事では、桐の特徴・利点と欠点に加え、加茂・春日部・名古屋・泉州・紀州など桐箪笥の主な生産地もまとめて解説します。
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桐という木の、ちょっと変わった立ち位置
木製家具に使われる材料のなかでも、どうにも他の木とは話が噛み合わないやつがいる。
そう、桐だ。
重い木が「俺は家具だ」と胸を張っている横で、桐は「え?ぼく板ですけど?」みたいな顔をして、ふわっと現れる。
軽い。白い。柔らかい。なのに、どこか偉そう。
なにしろ箪笥界のラスボス、桐箪笥の看板を背負っている。
古くから全国に分布し、生活の道具として加工され、働き、黙って役目を果たしてきた。
そして気づけば「桐って、なんか特別だよね」という空気だけが日本列島に漂い続けている。
このページでは、あらためて桐の特徴と、桐製品の代表格である桐箪笥の主な生産地をまとめる。
桐のことを「軽い木」くらいにしか思っていない人は、ここで少しだけ認識を改めてもらう。いや、改めなくてもいい。
ただ、桐が何者かは知っておいた方が、人生が少しだけ面白くなる。
桐(きり)
学名(英名):
Paulownia tomentosa
科:
昔はゴマノハグサ科と言われていたが、現在はシソ目のキリ科ということになっている。
こういうのは木の都合というより、人間側の分類ごっこの都合である。
分布:
原産地は中国中部、あるいは韓国の鬱陵島(ウルルン島)とも言われるが、実ははっきり分かっていない。
桐は昔からこういう「出自が曖昧」な感じをまとっている。
国内では東北地方、関東北部、新潟県などに植栽され木材利用されているほか、大分・宮崎県境の山岳地帯に自生地がある。
海外では中国、台湾、米国、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、オーストラリア等で植林されている。
つまり桐は、意外と世界を渡り歩いている。軽いからかもしれない(んなこたあないっ)。
特徴:
落葉広葉樹。木材としては気乾比重0.19~0.40と、極めて軽軟で加工しやすい。
触った瞬間に「あ、これは勝てない」と思うほど柔らかい。
しっかり乾燥させていれば湿度などの変化にも狂いが少なく、この性質が家具(特に箪笥)づくりに積極的に使われてきた理由の一つだ。
芯材と辺材の色の違いはさほどなく、淡褐色で、辺材が若干淡い程度。
成長が早く、苗木から家具が作れるほどの成木になるまで15~20年。
そのせいで「娘が生まれたら桐を植え、嫁入り道具として箪笥を拵える」という有名なエピソードが生まれた。
桐は昔から、人生設計に巻き込まれがちな木である。
産地によるが、寒い地域ほど木目がはっきりして美しく、重宝される。
国内生産量はピーク時(昭和34年頃)の2%まで落ちている。
しかし伝統工法で桐箪笥を作るメーカーはまだ健在で、全国各地で高級桐箪笥が作られている。
桐は「終わった木」ではない。むしろ、しぶとい。
桐の欠点と利点
桐の利点としてよく挙げられるのは、だいたいこの二つだ。
防虫防腐効果と断熱・耐熱効果。
それに加えて、フローリングなど体に触れる場所に使ったときの肌触りの心地良さも、地味に強い。
ただし、ここで人生の鉄則が出る。
「利点がある」ということは、「クセがある」ということだ。
クセのあるやつは、大体どこかで人を困らせる。桐も例外ではない。
桐が欠点と呼ばれがちなポイントは、主に次の二つ。
- 時と共に黒ずんで、見栄えが悪くなる
- 表面に傷が付きやすい
1.時と共に黒ずんで、見栄えが悪くなる
桐が防虫・食害を防ぐのは、タンニンの働きがあるからだ。
しかしタンニンには、空気に触れていると黒ずむ性質もある。
つまり「虫を追い払う力」と「見た目がくすむ力」が同居している。人生みたいだ。
さらに、古い桐箪笥を見ると分かるが、最初は平らだった表面も、時間と共に夏目(木目の柔らかい部分)が風化・乾燥し、でこぼこになってくる。
これが「見栄えが悪い」と言われる原因になる。
ただし、それを「味」と呼んでしまえば勝ちだ。味と言った瞬間に、欠点は芸になる。
2.表面に傷が付きやすい
桐は、とにかく柔らかい。爪がすれただけでも傷が残る。
だが、この柔らかさは「弱さ」ではなく、性質だ。
空気を多く含むから熱伝導率が下がり、断熱・耐熱効果が高くなる。
他の木材に比べて着火点・発火点も上回る(杉の発火点250°に対して桐は400度以上)。
軽くて柔らかいのに、火に強い。桐はどこか矛盾している。
しかも桐は、傷がつきやすいくせに、直しやすい。
柔軟さがあるので、少しの傷なら水分と熱を加えることで比較的簡単に戻る。
濡らしたウエスを当ててアイロンを当てるだけで、表面がふくらんで塞がる。
まるで「傷つきやすいけど立ち直りも早い」タイプの人間みたいだ。
こうして見ると、利点と欠点は表裏一体だ。
そして桐の場合、相対的には利点が多い。
たとえば音響効果があるため、昔から琴などの楽器に使われたり、軽くて加工しやすいので下駄づくりにも欠かせない。
さらに成木になるまで15~20年と早いのに、製品としての使用耐年数は100年でも可能。処分時にも有害ガスは出ない。
桐製品を使うのは、結果的に環境にも優しい…という話になってくる。
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国内の主な桐箪笥生産地域
ここからは、桐箪笥の主な生産地域を挙げていく。
地図で見ると「桐って日本中にいるじゃん」と思うが、箪笥づくりの技術が集まる場所は、やはり偏りがある。
新潟県 加茂市
加茂で桐箪笥が作られ始めたのは、およそ200年前からと言われている。
昭和51年に通産大臣より伝統的工芸品の指定を受けた。
雪国の気配と桐箪笥は、妙に似合う。
埼玉県 春日部市
江戸時代初期、日光街道の宿場町だった春日部には、日光東照宮建立に携わった職人が集まっていた。
建立後もそこに住みついた職人たちが指物家具を作り始めたのが、春日部の箪笥づくりの始まりと伝わる。
その際、その周辺で手に入った良質な材料に「桐」が選ばれたのだろう。
地元の材料と、地元に残った職人。こういう組み合わせは強い。
江戸時代中頃から箪笥が作られ始め、「明和9年(1772年)」の裏書きのある桐箪笥が現存している。
つまり春日部は、昔から本気で箪笥をやっている。
昭和54年8月に伝統的工芸品に指定された。
愛知県 名古屋市
名古屋桐箪笥は、他産地に比べて幅が広く、くぎはヒバ製あるいは同等材を用いるところに特徴がある。
良質な材料「飛騨桐」の産地に近かったこと、そして江戸時代初期の名古屋城築城で職人が集まったことが歴史の始まりだ。
昭和56年6月、伝統的工芸品に指定された。
大阪府 泉州地域
日本で最初に箪笥が作られ始めたのが大阪と言われている。
普及し始めたのは江戸時代中期。最初は庶民の中でも富裕層しか持てなかったが、江戸末期になると農業技術も発展し、近畿地方の一般農家にも行き渡るようになった。
需要と供給が整うと、職人は強い。
泉州の職人たちは、使いやすさだけでなく、消費者の高い要求に応えるために、美しさや細工の巧妙さにも磨きをかけた。
徹底的にこだわり抜いた泉州の桐箪笥は「最高峰」と言われる。
最高峰って言われるやつは、だいたい本当に面倒くさい(褒めてる)。
平成元年、伝統的工芸品に指定された。
⇒大阪府HP「大阪泉州桐箪笥、泉州桐箪笥」ページ
和歌山 紀州地域
和歌山では江戸末期には箪笥づくりの技術が確立されていたとされ、明治時代には大阪圏の需要を満たす地廻り産地として発展した。
明治34年に南海鉄道が開通して貨物輸送が可能になると、さらに勢いがついた。物流が通ると、文化も通る。
昭和62年に伝統的工芸品に指定された。
主な桐箪笥生産地域は以上。
ただし、桐材の主要産地は別にある。
箪笥を作る場所と、桐が育つ場所は、必ずしも一致しない。ここがまた面白い。
最後に
よく言われる話がある。
「娘が生まれたら桐を植えて、嫁に行くときにその材料で桐箪笥を拵えた」というやつだ。
話としては美しい。とても美しい。
だが実際にやろうとすると、なかなか骨が折れる。
桐が成木になるまで約15年。
そこからさらに乾燥期間が必要で、生木を切り倒してすぐ箪笥、というわけにはいかない。
自然乾燥が当たり前だった時代なら、なおさらだ。
当時の婚期は今よりずっと早かっただろうから、
もしかすると箪笥の完成より先に、娘の方が嫁いでしまったかもしれない。
庭には、行き場を失ったキリが、
「どうせ、もともと私ゃただの木ですから。。」と卑屈になって佇んでいたかもしれない。
しかも一説には、良質な桐材にするには成木15年の後、さらに育てて樹齢60年以上が良いとも言われる。
こうなるともう、嫁入り道具というより、
一族のの長期プロジェクトである。
かつての日本では、そうした気の長い話が現実に成り立っていたのだろう。
しかし今では国産の良質な桐材は減り、多くを中国産に頼っている。
しかも日本に入ってくる中国産桐は温暖な江南省周辺のものが多く、
日本産の桐とは似ているようで、性格はだいぶ違うという。
だから桐箪笥を選ぶときは、
値段や見た目だけでなく、
どんな桐を、どんな時間のかけ方で扱ってきたかを見た方がいい。
桐は軽い。驚くほど軽い。
だが、その背景は決して軽くない。
軽く、柔らかく、扱いにくく、
それでも百年単位で使われる。
桐という木は、そういう矛盾を抱えたまま、
今日も静かに箪笥の中の、何かを守っている。
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